院長の部屋

半月板の再生医療

2023年12月22日(金)
今回は再生医療の話をします。
 
半月板は修復能力が低いため、一旦ケガをするとなかなか治りません。半月板損傷が進行し(あるいは半月板切除により)半月板が欠損してしまうと、非常に治療が困難となります。放置すると変形性関節症に至ります。
 
歴史的に見ると、半月板の欠損に対し、脂肪組織や腱などを補填する手術が行われてきました。現在でも半腱様筋腱などを移植する手術(半月板再建術)が行われることがあります。しかしながら、これらの組織は、半月板とは形状が似ておらず、力学特性も劣るため、良好な長期成績が期待できないのが現状です。
 
さらに海外に目を向けてみると、同種半月板移植術(他の方の半月板を移植)が行われている国があります。1980年代頃から行われており、手術法の改良もあり、ある程度の手術成績が期待できます。しかしながら、ドナーの問題もあり、日本ではほとんど行われていないのが現状です。
 
そこで、上記のような問題もあり、近年再生医療に注目が集まっております。主に、以下の4つの手法があります。

 
①  脂肪などから採取した間葉系幹細胞を関節に注射する方法で、主に自由診療のクリニックで行われております。論文等での治療成績をみると、安全性は高く、ある程度の徐痛効果は期待できそうですが、半月板修復や再生はまだまだ難しいようです。侵襲(患者さんへの負担)が少ない方法ですので、今後の改良が望まれます。
半月板の形状をしたインプラントの移植。通常は、自分の組織に置き換わるような生分解性の素材が用いられます。海外(特にヨーロッパ)では、コラーゲンやポリウレタン製のインプラントを用いた手術が行われております。また日本でも、臨床研究の段階ですが、半月板インプラントを用いた治療が開発されつつあります。早期の臨床応用が期待されます。
永久型半月板インプラントの移植。現在は、海外のみの治療となります。自分の組織に置き変わらないプラスチックのような素材のインプラントです。論文などをみて見ますと、概ね10年くらいはもつようです。
細胞と材料(バイオマテリアル)を組み合わせた方法。細胞を臨床で使用するハードルが高く、まだまだ研究段階です。インプラントのみの移植より、生着性や長期の耐用性が期待できるため、早期の臨床応用が望まれます。

 ※上記は可能な限り客観的に記載しておりますが、多少私見も入っておりますので、ご注意ください。

学会賞受賞

2023年12月11日(月)

記念すべき第一回日本膝関節学会へ参加しました。大阪大学時代から開発に携わっております関節軟骨再生治療の第三相臨床試験の臨床成績について発表させて頂き、本発表が優秀演題賞に選ばれました。我々の研究が評価されて、大変嬉しく思います。早期に、膝関節で困っておられる患者様へ広く届けられるよう引き続き頑張ります。

mRNA

2023年10月04日(水)
今年のノーベル生理学・医学賞では、mRNAを医薬品として用いる技術が評価されました。
今後はワクチン開発だけでなく、新たな医薬品の開発も期待されます。以前に、mRNAを用いた変形性関節症治療薬の開発について、国際学会(ICRS)の会報へ記事を寄稿させて頂きました。まだ基礎研究の段階ですが、今後新たな治療法となることを祈念いたします。
 
記事は、下記URLからご覧いただけます。
https://cartilage.org/newsletters/fall-2021/
(ICRS会報 23ページに記事が掲載されております。)

大阪大学時代に、開発に携わりました新しい関節軟骨再生治療の臨床研究についての論文です。ご興味のある方は、是非ご覧ください(誰でも自由にダウンロードできます)。 https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/23259671231189474?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

スポーツの怪我で、しばしば治療に難渋することもある疲労骨折に関して、最新の生物学的治療について解説してます。ご興味のある方は、是非ご覧ください。
https://www.bunkodo.co.jp/magazine/G5BLEIZ75W.html                                                   

 






 

半月板の治療について

2023年08月07日(月)
今回は、半月板の治療の話をします。
 
まず、スポーツなどの怪我(外傷)の場合は、痛みや引っかかり感が続くことが多く、手術が必要なことがあります。またロッキングなどで膝の動きの制限が出る場合は、通常手術が必要となります。
 
加齢による変性の場合は、多くが保存療法(鎮痛剤の内服、ヒアルロン酸の関節注射、リハビリなど)で軽快するので、まずは保存療法を試しましょう。3〜6ヶ月で改善がない場合は、手術が必要なこともあります。
 
手術は、「切除術」(=半月板を削る)と「縫合術」(=損傷部を縫合糸で縫い合わせ、元の形に戻す)の2つがあります。半月板の外側1/3は血管があるため、この部位での損傷は修復する可能性が高く、通常、縫合術の適応となります。半月板の内側2/3は血管が存在しないため、この部位での損傷は修復が難しく、通常、切除術の適応となります。
 
一方、半月板の温存は大変重要であり、将来の変形性関節症の予防にもつながることから、従来は切除術の適応であったものも、徐々に縫合術が試みられるようになってきております。
 
次回は、半月板の再生医療の話をしたいと思います。

国際学会会報へ記事寄稿

2023年06月16日(金)
International Cartilage Regeneration & Joint Preservation Society(軟骨再生・関節温存治療の国際学会)の会報へ記事を寄稿致しました。
「変形性関節症治療に対する人工知能(AI)の応用」について最新の研究を交えて解説しております。英文ですが、興味のある方は是非ご覧ください。

以下のURLで閲覧できます(32ページ)。
https://cartilage.org/newsletters/summer-23/

また過去の院長の記事も以下のURLから閲覧できます。
https://cartilage.org/society/publications/newsletter/

半月板について

2023年06月07日(水)
今回は半月板の話をします。時々、スポーツ選手が半月板の怪我をしたニュースを耳にすることがあります。では、半月板とはどのようなものか?
 
まず、半月板はスポーツなどでよく怪我(外傷)をしますが、それ以外に、加齢により徐々に傷んでいく変性というものもあります。また小児期に、生まれつき半月板が分厚く丸い形をした「円板状半月板」で受診される患者さんもいらっしゃいます。そのため、幅広い年齢で半月板の損傷は起こりえます。
 
半月板は、膝関節にのみ存在するクッションのような組織です。線維軟骨という軟骨の一種ですが、関節部で骨の表面を覆っている関節軟骨とは別の組織となります。名前に半月という言葉が入っておりますが、三日月状の形をしており、一つの膝に二つの半月板があります(内側半月板と外側半月板)。血管が少ない、細胞が少ないという特徴があり、また大部分がコラーゲンなどの線維で出来ているため、一旦傷んでしまうとなかなか治癒しない特徴があります。
 
怪我を放置すると、自然に痛みが良くなる場合もありますが、痛みや動きの制限、引っかかり感が続く場合があり、さらに損傷を放置すると隣接する関節軟骨への負担が増え、徐々に関節が傷んでいく危険性があります。そのため、痛みや引っかかり症状が長く続く場合は、専門医へ受診をしましょう。
 
次回は、半月板の治療について解説をしたいと思います。

スポーツ外傷とスポーツ障害

2023年05月08日(月)
スポーツで起こる怪我には「スポーツ外傷」「スポーツ障害」があります。
 
スポーツ外傷は、1回の大きな力で生じる怪我で、骨折、捻挫、打撲、肉離れ、靭帯損傷、脳震盪(しんとう)、臓器破裂などがあります。手術を必要とすることも少なくありません。
 
一方で、スポーツ障害は、繰り返す小さな力で生じる怪我で、疲労骨折、腱の付着部炎(膝蓋腱炎、アキレス腱炎など)、テニス肘、野球肘などがあります。多くが適切に保存療法(薬物療法、運動療法、装具など)を行えば改善します。
 
外来へ来られる患者さんの多くは、スポーツ障害です。一般的な診察に加え、スポーツ種目、練習メニュー、練習量、運動時の姿勢などを確認させて頂き、運動量の最適化、ストレッチなどの運動指導をさせて頂き、また必要に応じてお薬やブロック注射、装具などを提案させて頂きます。適切な診断がされず、初期治療を誤ると障害が残ることもあるので、注意が必要です。
 
ずれの大きな骨折や自然修復が期待されない靭帯損傷(前十字靭帯損傷など)は、手術が必要なことが多いです。通常のレントゲンでは、診断が難しい場合もあるので、症状が続く場合は、詳しい検査(CTやMRIなど)を受けるようにしましょう。











院長

ご挨拶

2023年05月01日(月)
当院では、整形外科診療、リハビリテーションを広く行なっておりますが、特に「膝関節疾患」、「スポーツ整形外科」に力を入れております。学生、社会人問わず、広くスポーツ外傷・障害に対応させて頂き、診断・治療を確実に行い、スポーツ復帰を全面的にサポートいたします。
 
スポーツ膝外傷(前十字靭帯損傷や半月板・軟骨損傷など)に対する最新の関節鏡手術、変形性膝関節症に対する膝周囲骨切り術などにつきましては、提携病院にて手術にも対応させて頂いております。
 
また、スポーツ障害(上肢、下肢、脊椎など)に対しては、専門の理学療法士によるスポーツ復帰に向けた運動指導も行っております。
 
是非、お気軽にいつでもご相談にお越しください。
 
さて、本日より不定期ではございますが、ブログを始めさせて頂きます。これまでの経験を元に、皆様に分かりやすく病気や怪我の解説、最新の研究などをご紹介できればと思います。テーマは主に「膝関節」、「スポーツの怪我」、「再生医療」などを掲載予定です。少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。









院長